長野地方裁判所佐久支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人を懲役四月に処する。
但し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は嶋田四郎(当時四〇歳)が被告人が同乗の普通乗用自動車(ダツトサン・ブルーバード長五せ七一五三号)を運転中昭和四〇年五月一四日午後一〇時三五分ころ、小諸市乙一二五番地先国道一八号線道路上において、堀内スギ他一名に衝突し同女を即死させる等の交通事故を惹き起した直後、同所附近の右国道上において、事故後の処置に窮して路上にすくんでいた嶋田に対し、自らも右堀内が路上に転倒していることを認識しながら、「この儘行つてしまえ」等と申し向けてその場を放置して立ち去るようにしようようし、因つて、嶋田をしてその旨決意させ、もつて同女らの救護や、道路における危険を防止する等必要な措置を講ぜず、かつ、右事故の発生について法令に定める事項を、直ちにもよりの警察署の警察官に報告せずにその場から逃走するに至らしめて、これを教唆したものである。
(証拠の標目)(省略)
(
弁護人らは、本件事故発生当時における被告人は、酩酊のためその精神状態が甚だしく混濁し、事理の弁別心を欠如していたから、本件教唆の所為があつたとは認められないし、仮に起訴状記載のような言動があつたとしても、被告人に死傷についての認識があつたということができない旨主張する。
しかしながら、前示の各証拠によれば、被告人が所期の目的どおり、当夜竹沢よし江宅を訪問していること、翌朝同女に対し「ゆうべここへ来なかつたことにしておけ」と口止めし、かつ、その足で直接嶋田四郎宅に赴いて本件事故の話をしている等の事実が認められるから、これらの事実のみをもつてしても被告人が本件事故の発生を認識しつゝ判示のような教唆の所為に出たことは疑う余地がない。そして、右事実と前示各証拠によつて認められる被告人の当夜及びその後の言動とを併せ考えると、被告人の当夜の酩酊状態は、未だ心神耗弱の程度にも達していなかつたものと認められるから、弁護人らの右主張は、これを採用することができない。
(法令の適用)
法律に照すと、被告人の判示所為中いわゆる教護等の措置義務違反教唆の点は、刑法第六一条第一項、第六五条第一項、道路交通法第七二条第一項前段、第一一七条に、また報告義務違反教唆の点は、刑法第六一条第一項、第六五条第一項、道路交通法第七二条第一項後段、第一一九条第一項第一〇号に各該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条、第四七条但書の規定に従い、重い前者の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を懲役四月に処し、犯情刑の執行を猶予するのが相当であるから同法第二五条第一項第一号の規定に従い、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
よつて、主文のとおり判決する。